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ラベンダーの空

ラベンダーの空 8. アンソニーの幻-4

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外界に来て初めて、ジンは季節の移り変わりを肌で感じる暮らしを知った。

ルードの里よりも山奥のここの暮らしのほうがずっと、季節の移り変わりに合わせた生活を強いられているからだ。
あれだけ、自然と共存する里の魔法使いたちの暮らし方が嫌で、外界の機械文明に憧れていたはずのジンであったが、今ではすっかりここの暮らしにも慣れ、それを心地いいとまで思うようになっていた。

特に薬草を扱う仕事は、それぞれの季節に採取する薬草の種類や作業が変わることもあり、気候のちょっとした変化にも気を配りながら生活していくことになる。

しかしその暮らしは、毎日、本の新しいページをめくっていくように新たな発見や感動があった。そうして一日を過ごし、赤々と灯る暖炉のぬくもりのなかでその日の終わりを向かえる頃、里で暮らしていた頃には感じたことの無い充実感が、自分の心のなかにあることに気がついたからかもしれない。




翌日の朝も、窓の外の空気は凛と澄んでいて、朝日を浴びた風景は遠くまでくっきりと見ることができた。

「うわ、今朝も寒そうだな~」

ジンは窓のそとにチラッと目をやると、なんのためらいもなく、アンソニーからもらった服に手を通して部屋を出た。

「おはよ!今日は窓開けなかったんだ?」ラベンダーは、食卓に朝食の用意をしながらジンを見上げて意地悪く言う。

「ばぁーか、俺にだって学習機能ぐらいついてるんだよ」ジンは鼻をフンっと鳴らすと、ククっと笑ってみせる。

「あら、なんか今日は朝からにぎやかね?」フローラがキッチンからサラダボールを手にしてやってくる。

何気ない日常の中、こんな兄弟げんかのようなやり取りも、年の近い兄弟を持たないラベンダーにとっては新鮮で楽しいものに感じられるのかもしれないと、フローラは二人の様子を見ながらそう思った。



正午前には、いつものようにロジャーがやってきた。

「やあ、ジン。アンソニーかと思って見間違えちゃったよ」店に入ってくるなりロジャーは、いつになく大げさなジェスチャーを見せ、その姿に苦笑するジン。

「あら、なんかロジャー今日はご機嫌ね?」ロジャーの姿を見てフローラがそう声をかけた。

「そう?分かる?あのさ、アンソニーのヤツがさ、とうとう決まったんだよ」

「とうとうってなに?」アンソニーという言葉に反応したのか、ラベンダーが慌てて店に駆けつけてきた。


ラベンダーハウスの店舗部分は大きめの玄関が少し横長になった程度の広さしかない。南側には温室、北側には倉庫へと続くドアがある、壁には効用ごとに薬を分類しておく棚が置かれ、リビングとの境には、電話が置かれ、伝票などを処理するための小さな木製の事務机が置いてあるだけだ。

「ほらほら、こんな狭いところで立ち話もなんだから、こちらへどうぞ」フローラは一同に声をかけてリビングへと促す。

ロジャーは、ソファーに腰掛けるのももどかしいといった様子で、いきなり話を始めた。

「それがね、アンソニーの結婚が決まったんだよ」

「え?」誰よりも早くロジャーの言葉に反応したのはラベンダーだった。

「あら、それは・・・。おめでとう」フローラは少し控えめな感じでロジャーに声をかけた。

「それがさ~。アンソニーが勤めてる薬問屋のお嬢さんでさ。まあ、結婚って言っても婿に取られちゃうんだがね。この前ここに来たときに、そんな話があるって聞いたんだけど、先日あちらさんがご挨拶に見えてね・・・」

婿に取られるとは言いながらも、ロジャーは上機嫌で話を続けた。

「そ、そうなんだ・・・」

「ラヴァン?」ジンは小さな声でラベンダーを呼んでみるが、ラベンダーは無理に笑顔を作ったまま固まってしまったようだった。

「ラヴァン・・・、食事の用意。お昼の用意しよう。俺手伝うから」

ジンがそういってラベンダーの肩にそっと手を置くと、初めて我に返ったようになり、そうだねといいながらキッチンに向かった。

「あのさ・・・」

「ん?」

「大丈夫?」

「え?なにが・・・。別に、大丈夫だよ?」

ラベンダーは、下を向いたままシチューを入れた大鍋を火にかける。

「じゃあ、俺食卓拭いてくるから。鍋を持っていくときに声かけて」ジンはそういうとキッチンから食卓に向かった。

ロジャーは上機嫌で、いかにこの縁談がいい話か、いかに相手の女性がきれいな人なのか等をフローラに話し続けていた。

ジンがキッチンに戻ってくると、ラベンダーはボーっと火にかかった鍋を眺めている。

「あ、ラヴァン、鍋!噴いてるよ」

「え?あ・・・あちち・・・」

慌てて蓋を取ろうとしたラベンダーは、すこし火傷をしたようだ。ジンは慌てて、鍋を火から下ろすと、ラベンダーの手を取って流水で冷やし始めた。

「痛い?」

「あ、ううん。ちょっと触っただけだから、もういい。大丈夫・・・・。ごめん」

「なに謝ってるんだよ」

「いや。ごめん」

「ほら、俺が鍋もって行くから。ラヴァンは落ち着いたら来て」

「うん」

ジンは食卓に鍋を運び、ソファーの二人に声をかけた。





次へ。



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